地名の由来

  ○「新河岸」の由来

江戸時代、徳川第三代目の家光の頃、知恵伊豆(ちえいず、家光の側近)と言われた松平伊豆守信綱が、寛永十六年(1639)正月から川越藩主となり、災害に強い町割り、交通網の整備と共に武蔵野開発の一環事業として、当時「内川」と呼ばれた新河岸川に消費都市江戸と結ぶ水路による流通センターを川越藩領内に計画した。当時天領(幕府直轄領)だった寺尾村の五反田(現在の遊水池付近)には既に民間利用の荷揚げ場(後に寺尾下河岸と呼ばれる)がありそれなりの実績を残していた。この既設の河岸に対して川越藩事業として「たな河岸」機能を目指したので新河岸(しんがし)と命名された。

 表記の変遷

現在の表記は「新岸」であるが開設当時は「新岸」が正式文字であった。元禄初期に行われ関東地方の各廻船問屋価格統制文書には河岸名として「川越新」とある。江戸時代の古文書類や石造物は、中期までは(越領)「新岸」、天保以後になると「新岸」と変わり現在に至る。この変遷は荷揚げ場を「岸」から「岸」と表記することに追随している。通常『河』は大きな川を、『川』はそれ程大きくない川を表わすが、「川」から「河」へ昇格したい気分的なものがあったのか、「新」の字面が悪いと判断したのか不明である。蛇足ながら『越』が『越』と変遷したことと対比すると興味がある。

  「高階村」の盛衰

明治政府は市町村の行政単位を、江戸時代の村むらを合併させ一定規模にするよう強要した。

明暦三年(1657)に上・下に分離した新河岸はいち早く合併し、扇河岸を取り込んだ砂、砂新田、寺尾、藤間(藤馬と表記する場合もある)の村むらが合併し5部落の共同体となった。この村名は平安時代に編纂された和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう、和名称)の入間郡(いるまごおり)に記載されている郷名を採用して入間郡高階(いるまぐんたかしな)が誕生する。和名称の太加志奈(たかしな)がこの地に比定出来るかは未だ論争中らしい。約100年たらず経った昭和三十年(1955)には川越近隣の村むらは川越市に併呑され高階村の地名は無くなった。

 新河岸以前

鎌倉時代から室町時代にかけての板碑(いたび)が寺尾勝福寺周辺と砂氷川神社周辺に散在し、川越地区でも有数な出土数で江戸時代の『武蔵野夜話』でも紹介されている。「寺尾」の名称は扇谷・山内上杉(おおぎやつ・やまのうちうえすぎ)と古河公方(こがくぼう)を巻き込んだ連合軍と北条氏康軍の戦い「河越夜戦」に北条側の使者として登場する、「武州寺尾の住人、諏訪右馬之助」がいる。また「砂」に関しては北条家臣団名簿に「岩本太郎左衛門 須奈(すな)」との記載がある。いずれも北条家の御馬廻衆(おうままわりしゅう)で有力家臣団である。江戸後期に編纂された「新編武蔵風土記稿」には上下新河岸の西側には土塁(どるい)の遺構(いこう)が在り、寺尾に残る「城山」、「根小屋」と云う地名と共に「諏訪右馬之助」を城主とする「寺尾城」の痕跡か?と記載している。この説に従うと新河岸地区は寺尾に含まれていたことになる。ただ武州寺尾という地名は「秩父」と「神奈川の鶴見」もあり、いちがいに川越市の寺尾に比定出来ないとも述べている。鶴見では既に郷土史家の顕彰によって「寺尾城址」の石碑が建てられ、関連冊子も出版されている。しかしながら確たる決め手が無く、川越の寺尾に強い関心を抱き新資料発掘に期待いる方も居られる。一方、「砂」は岩本太郎左衛門に川越夜戦の論功賞として与えられたもので本管地は伊豆であり、北条氏康が関東制覇していく際の兵站庫(へいたんこ)の小屋程度の施設は砂地区にあったとしてもおかしくない。場所は砂の八坂神社跡(現在砂公民館あたり)、「扇河岸の記」を残した松平信輝の家臣津田高知(書記官?)が『いずれの時代かコヤといった地名』として興味を抱いて記録した場所が有力候補である。現在も扇河岸地区の小字名で古屋(こや)がある。この為「岩本太郎左衛門」が「諏訪右馬之助」の居城跡を継承した可能性は無い。田・畑の検地は豊臣秀吉以後という定説も考慮して新河岸地区が寺尾の一部であった戦国時代を経て、江戸時代の慶安(1648-1652)検地によって砂地区に繰り込まれたというのが真相に近いだろう。事実寛文四年(1664)の河越藩文書には武蔵野内新村には13ケ村として砂新田、砂窪と共に「砂新かし」の名がみられる。

川の名称

 年代順に「内川」、「川越川」、「新河岸川」の3種類が認められ現在「新河岸川」として定着。水源は仙波の滝(愛宕 神社東端下、現仙波河岸跡公園内)、その後新河岸開発のため、伊佐沼から九十川(ぐじゅうがわ)を通じて回流し水量増加をはかる。昭和九年頃灌漑用水を水源に見立て、当時二級河川だった「赤間川(あかまがわ)」を一級河川の新河岸川につなげ国管理に昇格、延長された。     

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